大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

新潟地方裁判所 昭和59年(行ウ)1号 判決 1985年9月30日

新潟県新潟市堀之内南一丁目一五番六号

原告

日南開発株式会社

右代表者代表取締役

圓山八百蔵

右訴訟代理人弁護士

藤巻元雄

兒玉武雄

右藤巻元雄訴訟復代理人弁護士

山田寿

新潟県新潟市営所通二番町六九二番地五

被告

新潟税務署長 高橋直治

右指定代理人

大沼洋一

三浦道隆

池田準治郎

若井正之

辻徹

星野一雄

岩本忠

岡田正

主文

一  原告の請求を棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告が昭和五七年一一月一〇日付で原告の昭和五六年四月一日から昭和五七年三月三一日までの事業年度(以下「本件事業年度」という。)の法人税についてした更正のうち土地譲渡利益金額金一三五〇万九〇〇〇円についての部分(以下この部分だけを「本件更正処分」という。)及び同部分に係る過少申告加算税の賦課決定(以下「本件過少申告加算税賦課決定」という。)を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  請求の趣旨に対する答弁

主文と同旨。

第二当事者の主張

一  請求の原因

1  更正処分

被告は、原告の本件事業年度の法人税について、昭和五七年一一月一〇日付で次のとおりの更正及び過少申告加算税の賦課決定(以下合わせて「本件更正処分等」という。)をした。

(一) 所得金額 金一二四七万二九六〇円

(二) 法人税額 金四二七万八二四〇円

(三) 土地譲渡利益金

(1) 課税土地譲渡利益金額 金一三五〇万九〇〇〇円

(2) 右(1)に対する税額 金二七〇万一八〇〇円

(四) 控除所得税額等 金六〇七九円

(五) 差引所得に対する法人税額 金六九七万三九〇〇円

(六) 差引合計税額 金六九七万三九〇〇円

(七) 既に納付の確定した本税額 金四二七万二一〇〇円

(八) 差引納付すべき法人税額 金二七〇万一八〇〇円

(九) 過少申告加算税

(1) 加算税の基礎となる税額 金二七〇万一〇〇〇円

(2) 加算税の額 金一三万五〇〇〇円

2  更正処分の違法性

本件更正処分等のうち、本件更正処分及び本件過少申告加算税賦課決定は違法である。

3  よって、原告は、被告に対し、本件更正処分等のうち、本件更正処分及び本件過少申告加算賦課決定の取消を求める。

二  請求の原因事実に対する認否

1  請求の原因1(更正処分)の事実は認める。

2  同2(更正処分の違法性)の主張は争う。

三  抗弁

更正処分の適法性

(一)  原告の納税申告等

原告は、不動産業を営む株式会社であり、本件事業年度の法人税について法定申告期限までに確定申告をした後、昭和五七年一〇月二一日に修正申告をしたが、右両申告における課税土地譲渡利益金額は0円であった。

(二)  本件更正処分の適法性

(1) 原告は、昭和五六年中に訴外外山熊栄(以下「外山」という。)から別紙物件目録記載(一)、(二)、(五)及び(六)の各土地(以下「本件土地(一)、(二)、(五)及び(六)」という。)を買い受け、その一部合計一六八八・八二平方メートル(以下「本件分譲地」という。)を昭和五七年一月までに他に売り渡し、その売却による譲渡利益金額の合計額は金一三五〇万九五四〇円であった。

(2) 原告は右(一)の法人税申告書(以下「本件法人税申告書」という。)に租税特別措置法施行規則二二条二項四号所定の都市計画法三五条二項の開発許可の通知の文書(以下「開発許可通知書」という。)及び同法三六条二項の検査済証(以下「検査済証」という。)の各写を添付することによって原告が同法二九条の開発許可(以下「開発許可」という。)を受けたことを証明しなかったうえ、原告が右法人税申告書に添付した開発行為許可書と題する書面によれば、原告は開発許可の名宛人ではなかった。

(3) したがって、右(1)の原告の本件分譲地の売却は租税特別措置法六三条三項四号に該当しないので、被告は昭和五七年法律第八号による改正前の租税特別措置法(以下「改正前租税特別措置法」という。)六三条一項一号及び右の改正(以下単に「改正」という。)後の同法六三条一項一号、二項により右土地売却に対して金二七〇万一八〇〇円の法人税を課する本件更正処分をした。

(三)  本件過少申告加算税賦課決定の適法性

右(一)の原告の確定申告が右(二)のとおり過少であったことについて国税通則法六五条二項所定の正当な理由があることは認められないので、被告は本件更正処分に伴い同条一項により金一三万五〇〇〇円を課する本件過少申告加算賦課決定をした。

四  抗弁事実に対する認否

1  抗弁(更正処分の適法性)のうち、(一)、(二)(1)、(2)の事実は認める。

2  同(二)(3)、(三)の主張は争う。

五  再抗弁

本件分譲地売却の租税特別措置法六三条三項四号への該当性

(一)  原告による本件分譲地の開発

原告は、本件土地(一)、(二)、(五)及び(六)を外山から買い受けたものであるが、その買受について新潟県知事に対して利用目的を宅地分譲と明記して事前に国土利用計画法二三条一項に基づく届出をし、同知事から右買受について同法二四条の勧告をしない旨の通知を受け、外山と別紙物件目録記載(一)ないし(六)の各土地(以下「本件各土地という。)について開発許可の共同申請者となる旨の覚書を交し、同法三二条に基づく新潟市との事前協議に参加し、右各土地について、外山との共同名義の開発許可申請手続を行政書士山岸栄吉(以下「山岸行政書士」という。に依頼し、本件土地(一)、(二)、(五)及び(六)について訴外株式会社石井建設に対し宅地造成工事を発注し、その宅地造成について新潟市の工事完了の検査に立ち会い、右各土地についての分譲予定価格について新潟県知事に対し国土利用計画法施行規則二一条に基づく確認申請をし、同知事から右予定価格についての確認を得たうえで、本件分譲地を公募の方法によって売却したものである。

(二)  行政書士の過誤と新潟市の対応

(1) 原告は、昭和五六年八月一〇日ころ右(一)のとおり山岸行政書士に対して本件各土地について原告及び外山の共同名義での開発許可申請手続を委任したところ、山岸行政書士は誤まって同年九月九日外山の単独名義で右申請手続をしたため、新潟市長は、同月一九日外山だけに対し本件各土地についての開発許可を行い、また、同年一一月一七日付で本件各土地についての外山だけに対する検査済証を山岸行政書士に交付した。

(2) 原告は右(1)の山岸行政書士の過誤を知った同月一八日以降開発許可申請手続の受付窓口である新潟市に対して開発許可申請者及び開発許可の名宛人に原告を追加訂正するよう要請したが、新潟市は、原告が本件(一)、(二)、(五)及び(六)の各土地の開発者であること及び山岸行政書士の右過誤を認めながら、一旦開発許可を行った以上、訂正はできないという理由でこれに応じなかったため、本件法人税申告書に原告を名宛人とする開発許可通知書及び検査済証の各写を添付できなかった。しかし、新潟市長は昭和五九年二月一日に至り原告が本件各土地についての共同開発者である旨の証明書を原告に対して交付した。

(三)  原告が開発者であることの証明方法

(1) 租税特別措置法六三条三項四号は、優良宅地の供給を確保するという立法趣旨に基づき、法人の土地譲渡利益に対する課税の適用除外を規定したものであり、同法六三条三項本文を受けた租税特別措置法施行規則二二条二項四号は、租税特別措置法六三条三項四号のうち、「法人が自ら造成した宅地である」との要件及び「宅地が開発許可の内容に適合している」との要件の認定方法として開発許可通知書及び検査済証の各写を法人税申告書に添付することを要求しているものであって、これは税務行政の簡素化、迅速処理の手法として他の行政庁の証明書等による簡易な認定方法を定めたものというべきである。

(2) しかし、他の行政庁の過誤又は不当な行為によってその行政庁の発行する証明書等が得られず、それによって右の課税除外要件を立証しえない場合には、実質課税の原則に照らしても、他の証拠方法によって右要件を立証することができるものというべきである。

(3) 本件において原告は右(二)(2)のとおり新潟市の不当な訂正申入の拒否によって原告を名宛人とする開発許可通知書及び検査済証の各写を添付できなかったものであるから、現実の証拠に基づき、右(一)のとおり原告が本件土地(一)、(二)、(五)及び(六)を自ら宅地造成して適正な価格で公募により分譲したことの立証を許し、原告の本件分譲地の売却について租税特別措置法六三条三項四号の適用を認めるべきである。

六  再抗弁事実に対する認否

1  再抗弁(本件分譲地売却の租税特別措置法六三条三項四号への該当性)のうち、(一)の事実は知らない。

2  同(二)(1)のうち、新潟市長が外山だけに対して本件各土地についての開発許可を行ったことは認めるが、その余の事実は知らない。同(2)の事実は知らない。

3  同(三)の主張は争う。

七  再抗弁に対する被告の反論

1  租税特別措置法六三条三項四号適用の実体的要件の欠缺

(一) 租税特別措置法六三条三項四号はその適用上の実体的要件として開発許可を受けた法人でなければならない旨を明示しているものであるから、仮に再抗弁(一)の事実が存するとしても、右の実体的要件が欠けている限り、同号を適用することはできないものというべきである。

(二) 仮に再抗弁(二)(2)の新潟市の対応に何等かの不当があったとしても、実際に原告に対する開発許可がない以上、本件分譲地の売却について右規定を適用する余地はないものというべきである。

(三) また、仮に本件が再抗弁(二)(1)のとおり山岸行政書士の過誤に起因するとしても、同行政書士を選任したのが原告である以上、それは原告自身の意思によって原告の経済活動範囲を広げたことに伴う経果に過ぎず、右行政書士が不適正な開発許可申請手続をした責任は、適正な申請手続をすべき義務を負う原告が負担すべきものである。

2  租税特別措置法六三条三項四号適用の手続的要件の欠缺

(一) 租税特別措置法六三条三項四号が適用されるための手続的要件として、同項本文は「大蔵省令で定めたところにより証明がされたもの」でなければならない旨明示しており、右証明以外に他の証明方法を認めた規定は存在しない。このように証明方法を限定した趣旨は税務行政の簡素化、効率化、安定化にあり、右の証明方法の例外を安易に認めることは右の趣旨を没却するものというべきである。

(二) 租税特別措置法六三条三項四号の趣旨が優良宅地の供給を確保することにあるとしても、同項本文はそれを踏まえたうえで要件事実の証明方法を限定しているわけであるから、同本文がその限定に例外を認めていない以上、同項四号を理由に例外を認めるべきではない。

(三) また、実質課税の原則は納税者の表現している法形式と取引の実態が合致していない場合にはその実態に法形式を引き直して課税所得を算出するということを意味するにすぎず、同原則の存在と右(一)の証明方法の限定に例外を認めるべきか否かとは関係がないものというべきである。

第三証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求の原因について

請求の原因一(更正処分)の事実は当事者間に争いがない。

二  抗弁について

抗弁(更正処分の適法性)のうち、(一)、(二)(1)及び(2)の事実は当事者間に争いがない。

三  再抗弁(本件分譲地売却の租税特別措置法六三条三項四号への該当性)及びそれに対する被告の反論について

1  租税特別措置法六三条三項四号適用の実体的要件について

(一)  法人の土地譲渡所得への特別課税の適用除外規定である租税特別措置法六三条三項四号はその適用要件の一つとして当該法人が当該土地について開発許可を受けたものであることを規定しており、この要件は都道府県知事(又は都市計画法八六条一項の委任による市長)の同法三三条、三四条等の基準に基づく判断を経ることによって租税特別措置法六三条三項四号所定の他の要件と相俟ち右の特別課税の適用が除外される優良な宅地の供給のための土地譲渡の要件を限定したものと解されるところ、右二において認定したとおり原告が本件分譲地について開発許可を受けなかったことは当事者間に争いがない。なお、この点に関し、成立に争いのない甲第一二号証及び乙第一号証の一、二によると、新潟市長が原告に対して昭和五九年二月一日に原告が本件各土地の開発行為についての都市計画法三二条に基づく事前協議等に参加していた旨を証明する文書を交付したが、同文書の交付は原告に本件各土地の開発許可を同日に至って事後的に与えたものではないことが認められ、結局、原告は本件土地(一)、(二)、(五)及び(六)について開発許可の名宛人となったことはないものである。

(二)  原告は再抗弁(二)(1)において、原告が本件土地(一)、(二)、(五)及び(六)について開発許可を受けられなかったのは原告から開発許可申請手続の委任を受けた山岸行政書士が委任の趣旨に反し原告を開発許可申請者に加えなかった同行政書士の過誤によるものである旨主張するが、この点は原告と同行政書士の間の委任契約上の責任問題を生じうるかもしれないというに止まり、少なくとも租税特別措置法六三条三項四号の適用上、原告が開発許可を受けたことと同視するに足りるものとは到底解されない。

(三)  また、原告は、再抗弁(二)(2)において新潟市が原告を開発許可の申請者及び名宛人に追加する措置をとらなかったことを主張し、同(三)(3)において新潟市の右の対応の不当性を主張するが、右各主張事実をもって、直ちに、原告が開発許可を受けないまま租税特別措置法六三条三項四号の適用を受けることができるものとすることはできない。しかも、右主張によると新潟市が原告から右の措置の要請を受けたのは、開発許可は固より、都市計画法三六条二項による工事完了の検査を行った後であるということからすると、原告が主張する新潟市の右対応をも不当と評価することには疑問なしとしないということができる。

(四)  さらに、原告は再抗弁(一)において、原告が本件土地(一)、(二)、(五)及び(六)を自ら宅地造成して本件分譲地を適正な価格で公募により売却した経過を主張するが、租税特別措置法六三条三項四号の適用上原告が開発許可を受けたことが不可欠の要件であることは右(一)に述べたとおりであり、原告の右主張は失当を免れない。

2  租税特別措置法六三条三項四号の要件の証明方法について

原告は再抗弁(三)において、原告が原告を名宛人とする開発許可通知書及び検査済証の各写を本件法人税申告書に添付できなかったことについて、本件においては、その理由、原因に鑑み、現実の証拠に基づき原告が本件土地(一)、(二)、(五)及び(六)を自ら宅地造成して適正な価格で公募によって分譲した旨の立証を許し、もって原告の本件分譲地の売却について租税特別措置法六三条三項四号の適用を認めるべきであると主張するが、この主張は同項本文、租税特別措置法施行規則二二条二項四号に照らし直ちに採用し難いうえ、租税特別措置法六三条三項四号の適用のために原告が開発許可を受けたことが必要であり、本件において特にそれを不要とする事情が認められないことは右1において述べたとおりであるから、仮に原告の右主張を採用して右の立証を許したとしても原告の本件分譲地の売却が開発許可を欠くことに変わりはなく、同主張はそれ自体失当といわなければならない。

四  本件更正処分等の適法性

1  以上のとおりであるから、原告の本件分譲地の売却については租税特別措置法六三条三項四号の適用は認められないので、右売却による原告の譲渡利益金額合計金一三五〇万九五四〇円について金二七〇万一八〇〇円の法人税を課した本件更正処分は、改正前租税特別措置法六三条一項一号及び改正後の同法六三条一項一号、二項、昭和五七年法律第八号附則一七条一項により適法である。

2  また、抗弁(一)の原告の確定申告は原告自身の判断においてされたものである以上、それが同(二)のとおり過少であったことについて国税通則法六五条二項所定の正当な理由が認められないことは右三に述べたところから明らかであるので、同条一項により金一三万五〇〇〇円の過少申告加算税を賦課した本件過少申告加算税賦課決定も適法である。

五  結論

右のとおりであるから、本件訴求は理由がないのでこれを棄却し、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 小野寺規夫 裁判官 長谷川憲一 裁判官 高橋徹)

物件目録

(一) 所在 新潟県新潟市親松字太田

地番 一三八番一

地目 田

地積 一九八六平方メートル

(二) 所在 右(一)と同じ

地番 一三八番二

地目 雑種地

地積 五九平方メートル

(三) 所在 右(一)と同じ

地番 一三九番一

地目 右(一)と同じ

地積 同右

(四) 所在 右(一)と同じ

地番 一三九番二

地目 右(二)と同じ

地積 同右

(五) 所在 右(一)と同じ

地番 一四〇番一

地目 右(一)と同じ

地積 同右

(六) 所在 右(一)と同じ

地番 一四〇番二

地目 右(二)と同じ

地積 同右

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例